- 髙谷時彦 教授「各自が活動するための1つの“テーブル”が用意され、様々な側面からまちづくりにアプローチできる」
- 伊藤眞知子 教授「みんながケアをする側にもまわる社会、そのシステムをいかにして構築するか」
- 澤邉みさ子 教授「網を広く張って精査する、私の研究の枠を超えていって欲しい」
- 武田真理子教授「“人”が重要なカギを握る、官民協働のあり方を探る」
- 温井亨 教授「人が暮らす中でできた風景をいかにして保存、再生するか」
網を広く張って精査する、私の研究の枠を超えていって欲しい
――研究テーマと研究の概要を教えてください。
障害がある人の雇用促進を実現するためにどうすればいいかということを研究テーマとしています。制度の研究を中心として、制度の見直しをしながら、制度で解決できないものをどうするかということを含めて考えています。
障害をもつ人が働くというときには、生活を支えられるということが一つの目標としてありますが、もう一方で社会経済活動に参加するという目標もあると思います。ただし、生活を支えるという意味では、障害の程度や現実の社会経済状況などの要素が影響してくるため、すべての人に可能なことではないと考えています。その場合に、制度をもっと整備していくことで、例えば、障害に対する偏見を取り除く、雇う側の経験不足をカバーすることなどができると思います。また、社会活動に参加するという意味では、“働く”という意味をもっと広く捉えたり、新しい働き方を考えたりすることで、いままでとは違うやり方で働くことが実現できるかもしれないと考えています。例えば、働く場を一般企業だけでなく社会的企業などに広げるという方法もあると思います。実際に、イタリアでは社会的企業の枠組みの中で障害者雇用を進めているようです。まだ始めたばかりですが、そのように、“働く”という意味や働き方を検討し直すことにも取り組んでいます。いろいろな事例を積み重ねる中で、社会の中での障害をもつ人に対する先入観、偏見を少しずつ取り除き、一般雇用での就労を進めていければいいですね。
とはいえ、障害と労働はあまり相性が良くないと私は考えています。「何かができない」から障害ということになりますが、「できる」ことを求めていくのが働くということだからです。「できない」ことを前提として、働くうえでは「できる」ことが何かを常に問われ続けます。しかも、生活費を稼がなければなりません。そうしたことを考えていくと、所得保障の問題も出てくるように思います。働き方を考え直すことによって障害者の人たちの社会参加を進めていくことと、所得保障をどうするかについては密接につながっているため、両方の視点をもって見ていく必要があります。
この所得保障の中心は障害年金になると思いますが、いま非常に厳しい財政状況にあるため、所得保障を充実させるのは決して簡単ではないことも確かです。現状では障害があれば必ず障害年金をもらえるわけでもありません。制度なので条件があるのは当然ですが、それ故に生活が厳しいという人たちは現実にたくさんいます。今後、そのような年金制度を中心にして所得保障をどうやって制度設計していくかについて考えなければなりません。所得保障がある程度確保されるようになれば、障害のある人たちは一般の人たちと同じように働かなくても生活できるようになります。お給料が生活するのに必ずしも十分ではないとしても働く機会は得やすくなり、つまり社会参加がしやすくなります。企業にとってもそうした形であれば障害者を雇用しやすくなるかもしれません。
日本の障害者の定義は世界的に見て厳格であるといえます。現在、日本の障害者の定義では全人口に占める障害者の割合が5%強となっていますが、先進国の平均では10%程度です。これは日本に障害者が少ないのではなくて、法的に認められた障害者が少ないということを示してします。障害の判定基準が医学的な判断に偏っているといえます。そのために、ボーダーラインに入らない人たちはみんなはじかれてしまっているという状況があるのです。もちろん、障害者の定義に当てはまらない人は障害者を対象としたサービスを一切受けることができません。ニーズに応じた障害の判定、つまり何らかの障害に起因して生活上困っている人たちを障害者と認めるならば、日本の障害者はもっと増えると思います。個人的には、本当に困っている人たちを支援するにはどうしたらいいかを視野に入れて研究に取り組んでいきたいと思っています。